行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成20年20問

行政法 国家賠償法

○:3.国家公務員の定期健康診断における国嘱託の保健所勤務医師による検診は、医師の一般的診断行為と異ならない行為なので、「公権力の行使」には該当しない。


問20

国家賠償法1条にいう「公権力の行使」に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.裁判官の裁判過程における行為は、司法作用にかかわる行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

☓:2.国会議員の立法過程における行為は、国の統治作用にかかわる行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

○:3.国家公務員の定期健康診断における国嘱託の保健所勤務医師による検診は、医師の一般的診断行為と異ならない行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

☓:4.国による国民健康保険法上の被保険者資格の基準に関する通知の発出は、行政組織内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

☓:5.勾留されている患者に対して拘置所職員たる医師が行う医療行為は、部分社会内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

解説

1.妥当でない。
判例は、特別の事情を要するとはしているが、裁判官の裁判過程における行為も「公権力の行使」に該当し、国家賠償請求の対象となるとしている(最判昭和43年3月15日、最判昭和57年3月12日、最判平成20年7月20日)。
「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。」(最判昭和57年3月12日)
2.妥当でない。
判例は、例外的にとはしているが、国会議員の立法過程における行為も「公権力の行使」に該当し、国家賠償請求の対象となるとしている(最判昭和60年11月21日、最大判平成17年9月14日)。
「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」(最判昭和60年11月21日)
「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。」(最大判平成17年9月14日)
3.妥当である。
判例は、保健所勤務医師の検診について、公権力の行使たる性質を有さないとしている。
「レントゲン写真による検診及びその結果の報告は、医師が専らその専門的技術及び知識経験を用いて行う行為であって、医師の一般的診断行為と異なるところはないから、特段の事由のない限り、それ自体としては公権力の行使たる性質を有するものではないというべきところ、・・・中略・・・検診等の行為が林野税務署長の保健所への嘱託に基づき訴外岡山県の職員である同保健所勤務の医師によって行われたものであるとすれば、右医師の検診等の行為は右保健所の業務としてされたものというべきであって、たとえそれが林野税務署長の嘱託に基づいてされたものであるとしても、そのために右検診等の行為が上告人国の事務の処理となり、右医師があたかも上告人国の機関ないしその補助者として検診等の行為をしたものと解さなければならない理由はないから、右医師の検診等の行為に不法行為を成立せしめるような違法があっても、そのために上告人が民法の前記法条による損害賠償責任を負わなければならない理由はないのである。」(最判昭和57年4月1日)
4.妥当でない。
通達は、行政上の取扱いの統一性を確保するために上級行政機関が下級行政機関に対して発する法解釈の基準であって、国民に対して直接の法的拘束力を有するものではないが、重大な結果を伴う定めを内容とする通達を作成し、発出する担当者には慎重な検討を行うべき職務上の注意義務が存ずるため、それを怠って違法な通達を発出すれば、その事自体についても国家賠償法上の違法の評価を受ける。
「国の担当者が、原爆医療法及び原爆特別措置法の解釈を誤り、原爆医療法に基づき被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者が国外に居住地を移した場合には、原爆特別措置法は適用されず、同法に基づく健康管理手当等の受給権は失権の取扱いとなる旨定めた402号通達を作成、発出し、また、これに従った失権取扱いを継続した国の担当者の行為は、公務員の職務上の注意義務に違反するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり、当該担当者に過失があることも明らかであって、国には、上記行為によって原告らが被った損害を賠償すべき責任があるというべきである」(最判平成19年11月1日)
5.妥当でない。
国公立病院における医療行為は、民間病院で行う医療行為と業務の性質が同じであり、私立病院との公平の観点より 国家賠償法一条にいう「公権力の行使」には当たらないとされており、国公立病院の医療過誤・医療事故については、国家賠償法を適用するのではなく、民法の不法行為責任や債務不履行責任により処理されている(参考判例、東大病院梅毒輸血事件:最判昭和36年2月16日)。
しかし、勾留されている患者の拘置所職員である医師による診療など特殊な事案での医療行為については、国家賠償責任を負う場合があるとしている(最判平成17年12月8日)。
「勾留されている患者の診療に当たった拘置所の職員である医師が、過失により患者を適時に外部の適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において、適時に適切な医療機関への転送が行われ、同病院において適切な医療行為を受けていたならば、患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは、国は、患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害について国家賠償責任を負うものと解するのが相当である。」(最判平成17年12月8日)
なお、当該判例の結論では、適切な医療行為を受けていたならば、重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性が証明できて無いとして請求は認められていない。


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