解答 行政書士試験 平成20年3問
基礎法学
○:4.その人間がどういう将来を選びたいと考えるかよりも、その人間がどういう将来性を有しているかという観点を優先するのは、憲法の「個人の尊重」原理の要請である。
○:4.その人間がどういう将来を選びたいと考えるかよりも、その人間がどういう将来性を有しているかという観点を優先するのは、憲法の「個人の尊重」原理の要請である。
問3 次の文章は、参議院内閣委員会で食育基本法案が議論された折のある議員の発言を、その趣旨を変更しないようにして要約したものである。この発言の趣旨と明白に対立する見解はどれか。
「更にちょっと深く議論を進めたいんですけれども、(法案の)13条に国民の責務という条文がございます。これについては先ほどの議論の中で努力規定という表現が提案者の方から聞かれましたけれども、しかしやはり国民の責務ときっちりうたっているわけでございます。」
「この健全な食生活に努めるという責務、これをなぜ国民は負わなければいけないんだろう。」「裏を返すと、不健康でもそれは自己責任じゃないかという、こういう議論もまたあるわけです。」
「そして、やはり自分が自分の健康を害することに対して何らかの制約を課す、これは法律用語でいいますと」、「自己加害の防止」であり、「これパターナリスティックな制約といいます。」「で、自己加害に対して国家が公権力として介入するのは原則許されないわけですね、これは法律論として。」
しかし、「未成年の人格的自立の助長や促進というものに関しては、限定的だけれどもこのパターナリスティックな制約は認められるであろうという、これが一つの法律の議論なんです。」
(出典 参議院内閣委員会会議録平成17年5月19日)
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.文明社会の成員に対し、彼の意志に反し、正当に権力を行使しうるのは、他人に対する危害の防止を目的とする場合である。
☓:2.日本国憲法がよって立つところの個人の尊重という思想は、相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護されることによってはじめて確実なものとなる。
☓:3.人の人生設計全般にわたる包括的ないし設計的な自律権の立場から、人の生と死についてのそのときどきの不可逆的な決定について、例外的に制約することは認められる。
○:4.その人間がどういう将来を選びたいと考えるかよりも、その人間がどういう将来性を有しているかという観点を優先するのは、憲法の「個人の尊重」原理の要請である。
☓:5.生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
解説
1.明白に対立しない。
本肢の「文明社会の成員」を素直に読めば、子供は含まれないと言えよう。つまり、本肢の内容は議員の発言趣旨同様にパターナリスティックな制約は原則許されないが、子供に対するパターナリスティックな制約は限定的・例外的に可能といえる。
したがって、対立しない。
なお、本肢は、J.S.ミルの自由論の和訳をベースにしたものであり、実際の和訳は「文明社会の成員に対し、彼の意志に反して、正当に権力を行使しうる唯一の目的は、他人に対する危害の防止である。・・・中略・・・いうまでもないことだが、この理論は、成熟した諸能力をもつ人間に対してだけ適用されるものである。われわれは子供たちや、法が定める男女の成人年齢以下の若い人々を問題にしているのではない。」となっている。
ミルの自由論は、危害防止原理とも言われており、パターナリスティックな制約を強く否定するものではあるが、小児や未成年者は、例外と位置づけられているため、前述のとおり議員の発言趣旨と対立はしないことになる。
また、本肢は、本来の和訳から「唯一の目的は」という部分を削除しているが、ミルの自由論というのを考慮せずに文面を見ると「唯一の目的は」が入っていると対立するように見えるため、あえて削除したものと思われる。
2.明白に対立しない。
本肢の「個人の尊重という思想は、相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護される」というのは、パターナリスティックな制約が原則認められないという前提(=自己決定権の尊重)に合致するものである。
したがって、対立しない。
3.明白に対立しない。
パターナリスティックな制約の分類では、ハードパターナリスティック(十分な判断能力、自己決定能力があっても介入・干渉する)とソフトパターナリスティック(十分な判断能力、自己決定能力がなくて介入・干渉する)に分ける事が可能であり、このような観点からみると、本肢で述べていることは前者に該当し、議員の発言趣旨は後者に該当することになり、分類自体は異なることになる。
しかし、わざわざ問題の柱文で「明白に対立」としている事を考えれば、「パターナリスティックな制約は原則許されないが、限定的・例外的に認められる」という点は共通している以上、対立はしてないと言えよう
4.明白に対立する。
本肢の「将来を選びたいと考えるかよりも、その人間がどういう将来性を有しているかという観点を優先する」という見解は、自己決定権について否定的な立場から述べたものであり、その見解を貫けば、本人の意思に優先して将来性を有していれば保護的な視点からパターナリスティックな制約が可能ということにもなりうる。
一方、議員の発言の趣旨は、自己決定権を尊重した上で、「パターナリスティックな制約は原則許されないが、限定的に認められる」としているのだから、明白な対立関係にある。
なお、仮に本肢を対立しない文にするのであれば「その人間がどういう将来を選びたいと考えるかよりも、その人間がどういう将来性を有しているかという観点を優先するのは、憲法の「個人の尊重」原理の要請から原則として許されない。」というような文になる。
5.明白に対立しない。
本肢は、憲法第13条の後段であるが、自己決定権は、幸福追求権の一部であると解されているため、「自己決定権は、公共の福祉に反しない限り、・・・最大の尊重を必要とする。」と換言することができる。
そして、これは、パターナリスティックな制約が原則認められないという前提(=自己決定権の尊重)に合致するものである。
したがって、対立しない。
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