解答 行政書士試験 平成20年42問
行政法
問42 損失補償に関する次の文章の空欄[ア]~[エ]に当てはまる語句を、枠内の選択肢(1~20)から選びなさい。
損失補償とは、国または公共団体の適法な活動によって私人が受けた[特別の犠牲]に対する補償をいう。[特別の犠牲]に該当するか否かは、規制又は侵害の態様・程度・内容・目的などを総合的に考慮して判断される。補償の内容と程度をめぐっては、[完全保証]説と[相当保証]説の対立がある。判例は、土地収用法の上の補償について規制・侵害の前後を通じて被侵害者の保持する[財産価値]が等しいものとなるような補償を要するという考え方と、必ずしも常に市場価格に合致する補償を要するものではないという考え方とを示している。前者が[イ]説に近く、後者が[ウ]説に近いということもできるが、両説の差異は本質的なものではなく、補償の対象とすべき損失をどこに見出すかに関する視点の違いによるものとも考えられる。
1、公用収用 ,2、限界効用 ,3、生活権補償 ,4、完全補償 ,5、公共の福祉 ,6、通損補償 ,7、権利補償 ,8、効用価値 ,9、収用損失 ,10、相対価値 ,11、平均的損失 ,12、効用補償 ,13、財産権補償 ,14、財産価値 ,15、財産権の内在的制約 ,16、交換価値 ,17、対価補償 ,18、特別の犠牲 ,19、相当補償 ,20、通常受ける損失
解説
ア.特別の犠牲
損失補償とは、国または公共団体の適法な公権力の行使によって私人の損なわれた特別の犠牲に対する財産的補償をいう。損失補償法というような一般法が存在しないため、原則的には土地収用法などの個別の法に沿ってなされるが、判例は損失補償を定める日本国憲法第29条第3項を直接の根拠として、補償を求める事も可能としている(河川附近地制限令事件:最判昭和43年11月27日)。
イ.完全補償 ウ.相当補償 エ.財産価値
補償の内容と程度をめぐっては、2つの学説が対立する。
完全補償説財産価値を等しくならしめる完全な補償を要する。
相当補償説合理的に算出された相当な額で足りる。
下記判例のようにその見解は、一見すると対立しているが、補償の対象とすべき損失をどこに見出すかといった視点の違いによって、異なっているにすぎないと考えることもできる。
例えば、財産権保障だけでなく生活権保障もするのか?、財産権保障に限ったとしても、それは権利対価補償のみで、移転料等の付随的損失補償は含まれないのか?などの違いによって、採用された立場は、相当補償説にも完全補償説にもなりうる。
≪相当補償説的な立場の判例≫
「憲法二九条三項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必しも常にかかる価格と完全に一致することを要するものでない」(農地改革訴訟:最大判昭和28年12月23日)
「憲法29条3項にいう「正当な補償」とは、その当時の経済状態において成立すると考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常に上記の価格と完全に一致することを要するものではないことは、当裁判所の判例(最大判昭和28年12月23日)とするところである。土地収用法71条の規定が憲法29条3項に違反するかどうかも、この判例の趣旨に従って判断すべきものである。」 (最判平成14年6月11日)
≪完全補償説的な立場の判例≫
「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。」(土地収用補償金請求事件:最判昭和48年10月13日)
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