行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成20年6問

基礎法学

○:5.政党による立候補者名簿の届出が不可能な選挙制度にする。


問6

参議院の政党化を抑制し、その衆議院に対する独自性を強めるために、次の記述のような改革が提案されたとする。この中で、最高裁判所の判例を前提とした場合、憲法改正が必要ではないと考えられるものはどれか。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.各都道府県の知事・副知事その他知事の任命する職員が参議院議員となる。

☓:2.都道府県議会議員が参議院議員を選挙する。

☓:3.参議院の議員定数を削減し、各都道府県から2名ずつ議員を選挙する。

☓:4.中立的な委員会が学識経験に優れた者を参議院議員に選出する。

○:5.政党による立候補者名簿の届出が不可能な選挙制度にする。

解説

1.必要である。
両議院は、全国民を代表する選挙された議員で組織するものであり(憲法第43条1項)、また、国会議員は、国民の選挙によって選ばれなければならないため(憲法第15条1項、3項)、本肢のように公選なくして参議院議員を選出する制度を作るのは、これらの規定に違反することになる。
したがって、この改革案の制度を採用するならば、憲法の改正が必要となる。
2.必要である。
日本の国会議員の選挙は直接選挙制を採用しているが、この他の主な選挙方法としては間接選挙制と複選制(準間接選挙制)がある。
間接選挙制とは、選挙人がまず選挙委員を選び、その選挙委員が公務員を選出する制度で、アメリカの大統領選挙がその例となる。
一方、複選制(準間接選挙制)とはすでに選挙されて公職にある者が公務員を選挙する制度で、本肢の「都道府県議会議員が参議院議員を選挙する。」のが、その例にあたる。
憲法第43条1項では「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」としているところ、ここに言う選挙に両選挙が含まれるかについての通説ないし多数説は、間接選挙は含まれるが(この点は反対説も多い)、複選制は間接性が強く民意の反映が期待できないため、含まれないと解している。
したがって、この改革案の制度を採用するならば、憲法の改正が必要となる。
なお、内閣総理大臣の選出方法は、複選制に近いものではあるが、あくまでも指名を議決する方法であって(任命は天皇)純然たる選挙にはあたらず、また、これを複選制の選挙と解するにしても憲法第67条1項で直接認められているため、問題にはならない。
3.必要である。
議員の定数については法律事項とされているので(憲法第43条2項)、参議院の議員定数を削減することは問題ない。
しかし、各都道府県から2名ずつ選挙するのは、いわゆる議員定数不均衡の問題が生じることになる。
この点について判例は、合理的に是認することができない投票価値の不平等が存するときは憲法第14条で定める「投票価値の平等」に違反するとしており、衆議院の場合約2倍以上で、参議院の場合約5倍以上で、違憲ないし違憲状態との判断がされている(最大判昭和51年4月14、最大判平成8年9月11日、最大判平成23年3月23日、最大判平成24年10月17日など)。
そして、各都道府県から有権者・人口等を考慮しないで2名ずつ定数を配分すれば、最大格差が5倍以上になることはほぼ確実(2013年12月の都道府県人口比で東京都と鳥取県で約23倍)である。 したがって、この改革案の制度を採用するならば、憲法の改正が必要となる。
なお、もう一歩踏み込んで検討した場合、憲法改正限界説に立てばそもそも憲法第14条の改正は出来ないのではないかという疑問も生じる。しかし、通説的な憲法改正限界説では、「憲法の基本原理を改めてしまうような改正はできない。」という趣旨のものであり、憲法第14条は一切改正できないというものではない。実際、基本原理に関わる憲法第9条は、憲法改正論の主な論点(自衛隊の存在等)に挙げられていることからも分かるように、基本原理を否定しない範囲での改正であれば、憲法第14条も9条も改正が可能と解されている。
4.必要である。
中立的な委員会が参議院議員に選出することは、公選なくして選出していることになるため、そのような制度を作るのは憲法に違反することになる(肢1参照)。
したがって、この改革案の制度を採用するならば、憲法の改正が必要となる。
5.必要ではない。
憲法第47条では「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」としており、各選挙制度の仕組みの具体的決定は、原則として国会の裁量に委ねられている。
下記2つの名簿式比例代表制の是非についての判例を簡潔に言えば、「国会の裁量に委ねられているから採用しているのは合憲である」としており、反対に言えば採用しないのも、国会の裁量と言えよう。
したがって、政党による立候補者名簿の届出が不可能な選挙制度、すなわち比例代表制を無くすような改革案の制度を採用しても、憲法改正の必要はない。
なお、憲法は政党の存在自体を予定していることから(最大判昭和45年6月24日)、政党の存在を全否定するような選挙制度を構築することは、違憲の問題が生じることになりうる。
「国会の両議院の議員の選挙について、議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。このように、国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるものであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には、その具体的に定めたところが、国会の上記のような裁量権を考慮しても、上記制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するためその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである・・・中略・・・国会が、参議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり、政党の上記のような国政上の重要な役割にかんがみて、政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは、その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。」(最大判平成16年1月14日)
「重複立候補制を採用し、小選挙区選挙において落選した者であっても比例代表選挙の名簿順位によっては同選挙において当選人となることができるものとしたことについては、小選挙区選挙において示された民意に照らせば、議論があり得るところと思われる。しかしながら、前記のとおり、選挙制度の仕組みを具体的に決定することは国会の広い裁量にゆだねられているところ、同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、右の仕組みの一つとして、国会が裁量により決定することができる事項であるといわざるを得ない。」(最大判平成11年11月10日)


この問題の成績

  • まだ、データがありません。


  • 試験過去問題の使い方

    平成30年までの行政書士試験問題の過去問を掲載しています。

    問題の解答ボタンの順番が、毎回ランダムで移動するので正解番号を覚えてしまうことを防止できます

    過去問ドリル使い方

    法令、一般知識のほか、法令につては(基礎法学、憲法<総論、人権、統治、財政>、行政法<行政手続法行政指導、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法>、民法<総則、物件、担保物件、債権>、商法、会社法、)などジャンルから選択するか、試験出題年度を選択してください。

    問題文章の後に選択肢が表示されるので、文章をタッチして解答してください

    解答画面では、過去6ヶ月間の解答について、履歴を表示するとともに、ユーザー全体の正解率を表示します。


    過去問を使った学習のヒント

    行政書士試験の本番時間は、3時間(180分) 法令46問、一般知識14問の合計60問が出題されます。

    1問あたり3分180秒で解答すれば間に合う計算になります。しかし、実際には、記述はもちろん、多肢選択、一般知識の文章読解問題は長い問題文を読んでいるだけで3分以上かかる場合もあるので180秒より速く解答する必要があります

    重要!毎日三時間用意する

    1問あたり100秒で解く(おおよそ半分の時間で一周できます)

    じゃあ残った時間は何をするのか?→解答を見る前に必ず見直すようにしてください。(回答時に自信がある問題、ない問題の目印をつけておくなど)


    過去問ドリルに取り組む前に

    一通りテキストを読み込んでから取り組みましょう。

    どの年度でもいいので初回60問といて、94点未満以下の場合はもう一度テキストを読み込む作業に戻りましょう

    300点満点中の180点取れれば合格ですので、目安として94点以上であれば、本格的に過去問ドリルに取り組んでみてください。