行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成21年43問

行政法


問43 行政裁量に関する次の文章の空欄[ア]~[エ]に当てはまる語句を、枠内の選択肢(1~20)から選びなさい。

法律による行政の原理の下においても、法律が行政活動の内容を完全に規律しつくすことはできない。従って、法律が行政機関に自由な判断の余地を認めている場合があるが、これを裁量という。   例えば、国家公務員法82条1項3号は、職員に「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」、「懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる」と規定しているが、例えば、公務員が争議行為を行い、同号にいう「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」という[要件]に当たると判断される場合、処分の[効果]について裁量が認められるとするならば、当該公務員について免職処分を選択するか、あるいは停職その他の処分を選択するかについては、懲戒権者の判断に委ねられることになる。しかしながら、その場合にあっても、当該非行が極めて軽微なものにとどまるにもかかわらず、免職処分を選択した場合は、[比例原則]に違反し、裁量権の濫用・踰越となる。   また、土地収用法20条3号は、土地収用を行うことのできる事業の認定にあたっては、当該事業が「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」でなければならないとしている。この場合、[要件]についての裁量が問題となるが、判例は、その場合の裁量判断について、「本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず、また本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価し」、これらのことにより判断が左右された場合には、裁量権の濫用・踰越にあたるとして、違法となるとしている。これは処分における[判断過程]について、司法審査を及ぼしたものといえる。

1、訴訟要件 ,2、目的 ,3、信義則 ,4、相当の期間の経過 ,5、効果 ,6、補充性要件 ,7、理由の提示 ,8、判断過程 ,9、過失 ,10、行政便宜主義 ,11、時の裁量 ,12、手続規定 ,13、紛争の成熟性 ,14、違法性阻却事由 ,15、保護義務 ,16、要件 ,17、行政規則 ,18、比例原則 ,19、手段 ,20、行政の内部問題

解説

空欄アとイについて
本問は、行政裁量論を題材にした問題であるが、まずその前提知識として行政庁の判断過程は大分して以下のようにたどることを理解する必要がある。
【1】事実認定事実を認定する。
【2】要件認定事実認定を構成要件にあてはめる。
【3】手続の選択どのような手続きをするか。
【4】行為(処分)の決定行為をするかしないか。
【5】行為(処分)の選択行為をするならばどのような行為をするか。
【6】時の選択いつそれをするか。
そして、このそれぞれにおいて、行政庁に裁量が認められるかが、行政裁量論として議論されるところである。
多数の学説によって、その見解は異なるが、現在の判例の立場を踏まえて端的に述べれば、【1】~【6】のいずれにおいてもその事案によっては行政庁の裁量が認められる余地はあると考えられている(【1】は原則認められない)。
また、行政裁量論ではそれぞれの裁量を指して、【1】事実認定裁量、【2】要件裁量、【3】手続の裁量、【4】行為裁量、【5】選択裁量、【6】時の裁量、【7】「【4】+【5】」(【3】と【6】を含めることもある)を効果裁量と呼ぶ。
これを踏まえて、空欄アとイの部分を見ると
「例えば、公務員が争議行為を行い、同号にいう「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」という[ア]に当たると判断される場合、処分の[イ]について裁量が認められるとするならば、当該公務員について免職処分を選択するか、あるいは停職その他の処分を選択するかについては、懲戒権者の判断に委ねられることになる。」
となっており、効果裁量について書かれているのがわかるかと思う。
この抜粋部分を言い換えると、「【2】の判断がされた後に、【7】の効果裁量が認められるならば、行為の選択は懲戒権者の判断に委ねられることになる。」という趣旨が書かれている事になる。
もっとも、「効果裁量」における「効果」は、「処分」自体を指している(又は処分を含めた概念である)ことから、「処分の[イ]について」という言い回しは、やや疑問の残る表現ではあろう。
実際、解答速報当初は一部で「手段」を正解と発表したところもあり、この辺の言い回しのおかしさにつられたものと思われる。
続いて、後半の空欄アの部分を見ると
「土地収用法20条3号は、土地収用を行うことのできる事業の認定にあたっては、当該事業が「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」でなければならないとしている。この場合、[ア]についての裁量が問題となる」
となっており、要件裁量についてが書かれているのがわかるかと思う。
したがって、[ア]には要件が入り、[イ]には効果が入る。
空欄ウについて
比例原則とは、達成しようとする目的とそのために取られる手段としての制約との間に合理的な均衡を要求する原則のことで、しばしば「雀を撃つのに大砲を使ってはならない」という法諺を引用して説明がされる。
例えば、「行政行為の附款がその目的に照らして重すぎる場合」、「軽微な違反に対して著しく重い行政処分をした場合」、「軽微な違反に対する警察の過剰捜査がなされた場合」などで、比例原則違反の問題が発生することになる。
空欄エについて
空欄エの前に書かれている判例の抜粋は、日光太郎杉事件(東京高判昭和48年7月13日)で示されたものであるが、この判例は、要件裁量についてどのような場合に違法となるかが示されており、すなわち、処分における判断過程に司法審査を及ぼしたものである。
また、当該判例は下級審判決ではあるものの学説上高い評価を受けており、土地収用法20条3号に関する他の下級審判決(札幌地判平成9年3月27日、東京高判平成18年2月23日など)でもこれに沿って判断が下されている。


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