行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成22年16問

行政法 行政不服審査法

○:2.ア・オ


問16 次のア~オの訴えのうち、抗告訴訟にあたるものの組合せはどれか。

ア、建築基準法に基づき私法人たる指定確認検査機関が行った建築確認拒否処分の取消しを求める申請者の訴え。
イ、土地収用法に基づく都道府県収用委員会による収用裁決において示された補償額の増額を求める土地所有者の訴え。
ウ、土地収用法に基づく都道府県収用委員会による収用裁決の無効を前提とした所有権の確認を求める土地所有者の訴え。
エ、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づき許可を得ている原子炉施設の運転の差止めを運転者に対して求める周辺住民の訴え。
オ、住民基本台帳法に基づき、行政機関が住民票における氏名の記載を削除することの差止めを求める当該住民の訴え。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.ア・イ

○:2.ア・オ

☓:3.イ・ウ

☓:4.ウ・エ

☓:5.エ・オ

解説

ア.抗告訴訟。
本肢は、行訴法の分類上は、抗告訴訟のうち処分の取消訴訟であるのは、容易に判断できるであろうが、それ以前に、私法人の処分に対して、取消訴訟を提起できるのかについての判断が難しかったのではないかと思う。
この点、行政事件訴訟法第3条1項は「抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。」と定めるが、ここに言う「行政庁」とは、国又は公共団体から公権力の行使の権限を与えられている機関を指すもので、国・地方公共団体の行政機関に限られないと解されており(仙台地判昭和57年3月30日)、それを前提に、行政事件訴訟法第11条2項は「処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、当該行政庁を被告として提起しなければならない。」としている。
指定確認検査機関(耐震偽装問題の際に注目を受けた機関)による確認に関する事務は、私法人が行なうものではあるが、地方公共団体の事務を特定行政庁の監督下において同機関に行わせているものであるため(建築基準法第6条の2)、当該機関は、当該事務に関する限りで、行政庁に該当し、当該機関を被告として、取消訴訟を提起できる(建築基準法第96条、94条1項参照)。
したがって、抗告訴訟にあたる。
イ.当事者訴訟。
当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの(形式的当事者訴訟)及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟(実質的当事者訴訟)をいう(行政事件訴訟法第4条)。
土地収用法133条3項では、補償額に関する訴訟の被告は起業者にすることを定めており、本肢は、当事者訴訟のうち形式的当事者訴訟にあたる。
したがって、抗告訴訟ではない。
ウ.争点訴訟。
争点訴訟とは、私法上の法律関係に関する訴訟において、その前提として、行政庁の処分等の存否又はその効力の有無が争われる「民事訴訟」をいい、単純に民事事件として処理するわけにもいかないので行政事件訴訟法の規定の一部を準用するべきことが規定されている(行政事件訴訟法第45条)。
本肢の、土地収用裁決の無効を前提として、土地所有権を失った者が、その所有権が今なお自分にあることの確認を求める訴訟は、争点訴訟の典型例にあたる。
したがって、抗告訴訟ではない。
エ.民事訴訟。
空港施設や原発施設などによる公害では、その主体が民間会社でありながら、公共的性格も有することから、その施設の運転について、民事訴訟による差止めが認められるかが一つの論点となる。
基本的な捉えかたは、公共施設の設置・供用が公権力の行使に該当すれば、民事訴訟による差止めはできず、公権力の行使に該当しなければ、民事訴訟による差止めが可能となる。
判例は、空港施設では民事訴訟による差止めを認めなかったが(大阪空港訴訟:最大判昭和56年12月16日)、原発施設については民事訴訟による差止めを認めているため(もんじゅ原発訴訟:最判平成4年9月22日など)、本肢の「原子炉施設の運転の差止めを運転者に対して求める周辺住民の訴え。」は、人格権等に基づき運転の差止めを求める民事訴訟を提起することになる。
したがって、抗告訴訟ではない。
オ.抗告訴訟。
行政機関が住民票における氏名の記載を削除することの差止めを求める当該住民の訴えは、抗告訴訟のうち差止め訴訟にあたる。
したがって、抗告訴訟にあたる。
なお、住民票への記載等に関する処分性については、「父が子につき住民票の記載をすることを求める申出に対して、記載をしない旨の応答」及び「世帯主との続柄を記載する行為」については、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないとされているが(最判平成21年4月17日、最判平成11年1月21日)、「住民票における氏名の記載を削除」及び「住民票自体を消除」することは、選挙権の行使の制限という法的効果をもたらすため、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされている(最判平成11年1月21日、東京地判平成13年12月17日、大阪高決平成19年3月1日)。
「市町村長が住民基本台帳法七条に基づき住民票に同条各号に掲げる事項を記載する行為は、元来、公の権威をもって住民の居住関係に関するこれらの事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であり、それ自体によって新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有するものではない。もっとも、・・・中略・・・住民票に特定の住民の氏名等を記載する行為は、その者が当該市町村の選挙人名簿に登録されるか否かを決定付けるものであって、その者は選挙人名簿に登録されない限り原則として投票をすることができない(同法四二条一項)のであるから、これに法的効果が与えられているということができる。しかし、住民票に特定の住民と世帯主との続柄がどのように記載されるかは、その者が選挙人名簿に登録されるか否かには何らの影響も及ぼさないことが明らかであり、住民票に右続柄を記載する行為が何らかの法的効果を有すると解すべき根拠はない。したがって、住民票に世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないものというべきである。」(最判平成11年1月21日)


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