行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成22年3問

憲法 憲法総論

○:2.二つ


問3 基本的人権の限界に関して、次の文章のような見解が主張されることがある。この見解と個別の人権との関係に関わる次のア~オの記述のうち、正しいものはいくつあるか。

日本国憲法は、基本的人権に関する総則的規定である13条で、国民の権利については「公共の福祉に反しない限り」国政の上で最大の尊重を必要とすると定めている。これは、それぞれの人権規定において個別的に人権の制約根拠や許される制約の程度を規定するのではなく、「公共の福祉」による制約が存する旨を一般的に定める方式をとったものと理解される。 したがって、個別の人権規定が特に制約について規定していない場合でも、「公共の福祉」を理由とした制約が許容される。
ア、憲法36条は、「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と定めるが、最高裁判例は「公共の福祉」を理由とした例外を許容する立場を明らかにしている。
イ、憲法15条1項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定めるが、最高裁判例はこれを一切の制限を許さない絶対的権利とする立場を明らかにしている。
ウ、憲法21条1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めるが、最高裁判例は「公共の福祉」を理由とした制限を許容する立場を明らかにしている。
エ、憲法21条2項前段は、「検閲は、これをしてはならない」と定めるが、最高裁判例はこれを一切の例外を許さない絶対的禁止とする立場を明らかにしている。
オ、憲法18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」と定めるが、最高裁判例は「公共の福祉」を理由とした例外を許容する立場を明らかにしている。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.一つ

○:2.二つ

☓:3.三つ

☓:4.四つ

☓:5.五つ

解説

ア.誤り。
公務員による拷問及び残虐な刑罰は、被疑者又は被告人から自白を得る手段として、法律上で禁止されているにもかかわらず(明治憲法では明文規定がなかった)、実際には行われてきたという歴史的背景を踏まえて、現憲法第36条では「絶対にこれを禁ずる」として、異例ともいえる強い表現で禁止しており、これと対立するべく「公共の福祉」を理由とした制限を許容する立場を明らかにした最高裁判例は存在せず、また、学説においても、絶対的禁止であり、「公共の福祉」による例外は許されないと解されている。
なお、思考の方法として、仮に実質的な例外を認めるのであれば、真っ向から憲法の規定に対立するべく例外を許容するのではなく「当該刑罰は拷問及び残虐に該当しない」という言い回しで(下記判例参照)、条文との矛盾を回避するであろうというのは、想像するに容易いかと思う。
「死刑は、冒頭にも述べたようにまさに窮極の刑罰であり、また冷厳な刑罰ではあるが、刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに同条にいわゆる残虐な刑罰に該当するとは考えられない。ただ死刑といえども、他の刑罰の場合におけると同様に、その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には、勿論これを残虐な刑罰といわねばならぬから、将来若し死刑について火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば、その法律こそは、まさに憲法第36条に違反するものというべきである。」(最判昭和23年3月12日)
イ.誤り。
当選を得る目的で選挙人に対し金銭などを供与するなど一定の選挙犯罪を犯した者が公職選挙法によって選挙権被選挙権が停止されることについて判例は「国民主権を宣言する憲法の下において、公職の選挙権が国民の最も重要な基本的権利の一であることは所論のとおりであるが、それだけに選挙の公正はあくまでも厳粛に保持されなければならないのであって、一旦この公正を阻害し、選挙に関与せしめることが不適当とみとめられるものは、しばらく、被選挙権、選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保すると共に、本人の反省を促すことは相当であるからこれを以て不当に国民の参政権を奪うものというべきではない。」とし、憲法に違反しないとしている(最大判昭和30年2月9日)。
したがって、「最高裁判所は憲法15条1項を一切の制限を許さない絶対的権利とする立場を明らかにしている」とはいえない。
なお、公職選挙法上では、一定の選挙犯罪を犯した者の他に、受刑者なども選挙権を行使できないとしているが、通説は選挙権の公務としての特殊な性格に基づく必要最小限度の制限であると解している。
ウ.正しい。
「国民はまた、新憲法が国民に保障する基本的人権を濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うのである(憲法12条)。それ故、新憲法の下における言論の自由といえども、国民の無制約な恣意のままに許されるものではなく、常に公共の福祉によって調整されなければならぬのである」(最大判昭和24年5月18日)
「上告趣意は、憲法21条の保障する表現の自由が他の基本的人権に関する憲法22条、29条の場合のように制限の可能性が明示されていないから、絶対無制限であり、公共の福祉によっても制限できないものと主張する。しかしながら憲法の保障する各種の基本的人権についてそれぞれに関する各条文に制限の可能性を明示していると否とにかかわりなく、憲法12条、13条の規定からしてその濫用が禁止せられ、公共の福祉の制限の下に立つものであり、絶対無制限のものでないことは、当裁判所がしばしば判示したところである」(チャタレー事件:最大判昭和32年3月13日)
エ.正しい。
「憲法21条2項前段は、「検閲は、これをしてはならない。」と規定する。憲法が、表現の自由につき、広くこれを保障する旨の一般的規定を同条一項に置きながら、別に検閲の禁止についてかような特別の規定を設けたのは、検閲がその性質上表現の自由に対する最も厳しい制約となるものであることにかんがみ、これについては、公共の福祉を理由とする例外の許容(憲法12条、13条参照)をも認めない趣旨を明らかにしたものと解すべきである。けだし、諸外国においても、表現を事前に規制する検閲の制度により思想表現の自由が著しく制限されたという歴史的経験があり、また、わが国においても・・・中略・・・典型的な検閲が行われる等、思想の自由な発表、交流が妨げられるに至った経験を有するのであって、憲法21条2項前段の規定は、これらの経験に基づいて、検閲の絶対的禁止を宣言した趣旨と解されるのである。」(税関検査事件:最大判昭和59年12月12日)
オ.誤り。
憲法18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」としているが、これは戦前の「監獄部屋」や「たこ部屋」など、人間の尊厳に反する非人道的な自由の拘束を廃絶するべく定められたもので、「何人も、いかなる」の表現から分かるように、例外を認めない趣旨であって、これと対立するべく「公共の福祉」を理由とした制限を許容する立場を明らかにした最高裁判例は存在しない。


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