解答 行政書士試験 平成22年35問
民法相続
○:3.イ・ウ
○:3.イ・ウ
問35 Aは、海外出張に出かけたが、帰国予定の日に帰国しないまま長期間が経過した。その間、家族としては関係者および関係機関に問い合わせ、可能な限りの捜索をしたが、生死不明のまま出張から10年以上が経過した。そこで、Aについて、Aの妻Bの請求に基づき家庭裁判所によって失踪宣告がなされた。Aの相続人としては、妻Bおよび子Cの2人がいる場合に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア、BがAの出張前にAから誕生日に宝石をプレゼントされていたときは、Aの相続開始とされる時においてAが有していた財産の価額に、その宝石の価額を加えたものを相続財産とみなし、Bの相続分の中からその宝石の価額を控除した残額をもってBの相続分とする。
イ、Aの相続についての限定承認は、BとCが共同してのみ家庭裁判所に申述することができる。
ウ、Aの遺言が存在した場合に、その遺言の効力は、Aの生死が不明になった時から7年の期間が満了した時からその効力を生ずる。
エ、CがAの失踪宣告前にAの無権代理人としてA所有の土地および建物をDに売却した場合に、BがCと共同して追認をしないときでも、当該無権代理行為は有効となる。
オ、Aについて失踪宣告がなされた後にBはD男と婚姻したが、その後、失踪宣告が取り消された場合に、A・B間の婚姻とB・D間の婚姻は、戸籍の上では共に存在することになるが、両者の婚姻は、当然には無効とならず、共に重婚を理由として取り消し得るにすぎない。
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.ア・イ
☓:2.ア・オ
○:3.イ・ウ
☓:4.ウ・エ
☓:5.エ・オ
解説
ア.誤り。
遺産分割に際して、特別受益者がいる場合、すなわち被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がいる場合は、本肢のように被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、特別受益者の相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額がその者の相続分となる(民法第903条1項)。
しかし、ここで言う「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」とは、結婚資金や住宅購入資金などある程度まとまった財産が想定されているのであって(生活水準等から総合考慮して判断)、誕生日プレゼントやお年玉といったものは、原則として含まれないと解されている。
したがって、Bは特別受益者にあたらず、本肢のような算出はされない。
イ.正しい。
限定承認とは、被相続人に借金などがある場合において、相続財産の損益が分からないとき、相続財産の範囲内を限定に借金も引き受けることができるという制度である(民法第922条)。
この限定承認は、相続人が数人あるときは、相続人の間に不公平が生じることを防止するために、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができ(民法第923条)、限定承認をしようとするときは、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない(民法第924条、915条)。
したがって、Aの相続についての限定承認は、BとCが共同してのみ家庭裁判所に申述することができる。
ウ.正しい。
不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができるが(民法第30条1項)、この場合、失踪の宣告を受けた者は、7年の期間が満了した時に、死亡したものとみなされる(民法第31条)。
また、遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(民法第985条)。
したがって、Aの遺言の効力は、Aの生死が不明になった時から7年の期間が満了した時からその効力を生ずる。
エ.誤り。
本人が死亡し、無権代理人がほかの相続人とともに本人の地位を共同相続した場合、本人の追認権はあくまでも共同相続人全員が一致してはじめて行使できるものであり、追認権は分割されないため、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない(最判平成5年1月21日)。
したがって、BがCと共同して追認をしないときは、当該無権代理行為は有効とならない。
オ.誤り。
再婚後に失踪宣告が取消された場合の婚姻関係の通説ないし多数説は、次のようになっている。
≪後婚の両当事者が善意の場合≫
民法第32条1項後段の「その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」は、身分行為にも適用があるとした上で、前婚は復活せず後婚がそのまま有効で残ると解する。
≪後婚の両当事者が悪意又は一方が悪意の場合≫
前婚が復活して前婚と後婚が重婚状態となり、前婚については離婚原因(民法第770条)が生じ、後婚については婚姻取消原因(民法第732条、744条)が生じると解する。
また、有力説としては、身分行為については32条1項後段の適用を否定すべきとする見解や常に後婚を有効とすべきとする見解などがあるが、いずれの見解に立つとしても、前婚には、離婚原因が生じているにすぎず (民法第770条1項)、婚姻取消原因(民法第732条、744条)は生じてないため、本肢のような「共に重婚を理由として取り消し得る」とはならない。
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