行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成22年58問

一般知識 文章理解

○:3.イ・オ


問58 次のア~オの記述のうち、本文中で画家が「対象をわがものにしたこと」の意味している内容説明として、不適切なものの組合せはどれか。

デッサンについて、マティスはつぎのように言う。
 デッサンもまた重要です。それは対象をわがものにしたことの表現です。ある対象を徹底的に知ったときには、すっかりその特徴をつかむような輪郭線で囲むことができます。アングルはこの問題について言っています、デッサンは籠みたいなものだ、穴をあけずに細枝一本抜き取れはしない、と。(『マティス 画家のノート』一九七八みすず書房P.234)
 デッサンとは画家が「対象をわがものにしたこと」のあらわれである、とマティスは言う。対象を徹底的に知り、つかむとき、そのデッサンは対象の特徴をすべてとらえた輪郭線となる。うまくいったデッサンは、ちょうど細密に組み上がった柳細工の籠(パニエ)のように、なにひとつ余分な線=細枝などを跳ね上げることもなく、緊密に、十全に対象を描く。マティスのことばはこのように理解されるだろう。
 だがデッサンが、画家が「対象をわがものにしたこと」であるというのは、なぜなのだろうか。それはおそらく、デッサンすなわち物の輪郭線を描くということがらの本質に関わっている。すこし考えればすぐわかることだが、そもそも物体には、その固有の輪郭線などは備わっていない。輪郭線とはその物体と地=世界との区分線のことであるが、そんな区分線などは現実の物体のどこにもない。区分線は、その物体を見る視線によって生じる。つまりデッサンで描かれるのは、物体の輪郭そのものではなく、正確には物体とそれを見る視点との距離や角度であり、あえていえば画家の視線の集積であるのだ。だが、そうであれば、対象そのものの輪郭線を描くことなどはとうてい望めないことになり、あるいは逆に、どのようなわけのわからない落書きも、画家がみずからの視点であると称することによってデッサンであるといえることになるのではないか。もちろん原理的にはそうであるが、こういう非難を行う論者は描く技術の巧拙ということを、そして画家の努力ということを、軽んじ、見逃している。デッサンには明らかに巧拙があり、それは技術によって裏付けられる。拙いデッサンは、対象と地=世界との区分線が恣意的であり、輪郭線がむやみに目立って、ばらばらな印象しか与えない。しかし巧みなデッサンは、区分線はいかにも確定的にそこにあり、対象は統一されて、しかもしばしば輪郭自体が目立たず消え去ってしまっているような印象を与えるのだ。画家の努力は、こうした本来恣意的な、みずからの視点によって流動する対象の輪郭を、にもかかわらず確定的に把捉するという点におそらくは賭けられる。それは一種の矛盾であるが、習熟する画家にとっては、デッサンによる対象の正確な把捉は断固として可能であるし、また可能でなければ画家であることはできない。マティスがデッサンを「対象をわがものにしたこと」であるというのは、デッサンが成功し対象の把捉がかなったときのことを示している。成功したデッサンは、稠密に編まれた籠のように余分な線ひとつなく、ある完全さを実現する。
(出典 宮川敬之「『眼蔵』をよむ」より)
ア、物体には本来、輪郭線などないが、画家の的確な目が把捉した対象の本質を、過不足のない線で、具体的に紙の上にデッサンとして定着させたこと。
イ、物体には固有の輪郭線などないが、自らが描いたデッサンの線が、対象の本質がそこにあると見る者に納得させうると、画家が信じていること。
ウ、物体の輪郭線は、実際には存在しないが、画家が「物体」とはこうであると考え、その見方を特定の距離と角度を示す線により、決定したこと。
エ、物体には本来ない輪郭線により、地=世界から隔絶し自立した存在が示されたデッサンとなったとき、単なる他と区別する線としての意味を超えること。
オ、物体には本来輪郭線はないが、画家の視点により対象の見え方が異なり輪郭が生じる。的確な輪郭線が実現したというのは、画家の錯覚を表現しているということ。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.ア・ウ

☓:2.イ・エ

○:3.イ・オ

☓:4.ウ・エ

☓:5.エ・オ

解説

ア.適切である。
本肢の「物体には本来、輪郭線などないが、」は、本文の「そもそも物体には、その固有の輪郭線などは備わっていない。」と合致し、本肢の「画家の的確な目が把捉した対象の本質を過不足のない線で、具体的に紙の上にデッサンとして定着させたこと。」は、本文の「デッサンによる対象の正確な把捉は断固として可能で・・・(中略)・・・成功したデッサンは、稠密に編まれた籠のように余分な線ひとつなく、ある完全さを実現する。」と合致する。
したがって、適切である。
イ.適切でない。
本肢では「見る者に納得させうると」としているが、本文では「マティスがデッサンを「対象をわがものにしたこと」であるというのは、デッサンが成功し対象の把捉がかなったときのことを示している。」としている。つまり、「対象をわがものにしたこと」ができたかどうかの判断の基準が、本肢は、見る者を納得させたかどうかであるのに対し、本文は、自らが把捉(はそく:しっかりとらえること)できたかどうかである。
したがって、適切でない。
ウ.適切である。
本肢の「物体の輪郭線は、実際には存在しないが、」は、本文の「そもそも物体には、その固有の輪郭線などは備わっていない。」と合致し、本肢の「画家が「物体」とはこうであると考え、その見方を特定の距離と角度を示す線により、決定したこと。」は、本文の「区分線は、その物体を見る視線によって生じる。つまりデッサンで描かれるのは、物体の輪郭そのものではなく、正確には物体とそれを見る視点との距離や角度であり、あえていえば画家の視線の集積であるのだ。」と合致する。
したがって、適切である。
エ.適切である。
本肢の「物体には本来ない輪郭線により、」は、本文の「そもそも物体には、その固有の輪郭線などは備わっていない。」と合致し、本肢の「地=世界から隔絶し自立した存在が示されたデッサンとなったとき、単なる他と区別する線としての意味を超えること。」は、本文の「拙いデッサンは、対象と地=世界との区分線が恣意的であり、輪郭線がむやみに目立って、ばらばらな印象しか与えない。しかし巧みなデッサンは、区分線はいかにも確定的にそこにあり、対象は統一されて、しかもしばしば輪郭自体が目立たず消え去ってしまっているような印象を与える」と合致する。
したがって、適切である。
オ.適切でない。
本肢は、「画家の錯覚を表現している」としているが、本文は「デッサンによる対象の正確な把捉は断固として可能であるし、また可能でなければ画家であることはできない。」としている。
したがって、適切でない。


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