解答 行政書士試験 平成22年9問
行政総論
○:2.通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないが、特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、相手方たる国民との関係においても違法とされる余地がある。
○:2.通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないが、特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、相手方たる国民との関係においても違法とされる余地がある。
問9
通達に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.通達は、法律の根拠なく発令・改廃することができるが、それに際しては、官報による公示や関係機関の事務所における備付けその他適当な方法により国民に対して公にしなければならない。
○:2.通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないが、特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、相手方たる国民との関係においても違法とされる余地がある。
☓:3.通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないから、その発令・改廃行為は、行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」および国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にはあたらない。
☓:4.通達によって示された法令解釈の違法性が訴訟において問題となったとき、裁判所は、行政庁の第一次的判断権の尊重の原則により、それが重大明白に誤りでない限り、当該通達で示された法令解釈に拘束される。
☓:5.通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と別のものであるから、通達に反する行為を行ったことと当該行為を行った公務員の職務上の義務違反との間には、直接の関係はない。
解説
1.誤り。
通達の発令・改廃は、官報による公示やインターネットを介して国民に対して公にされることもあるが、本来行政における内部的に発するものであることから、国民に対して公にすることは必ずしも要件とはならず、たとえば国民に対して秘密とされるいわゆる秘密通達を発令することも可能である(ただし、秘密通達も情報公開法による公開請求の対象になるため、請求されれば非公開事由に該当しない限り、公開を要する)。
したがって、「国民に対して公にしなければならない。」という点は誤りである。
なお、通達は、行政機関内部における指針であって、国民の権利及び義務を直接に規定又は制限するものではなく、上級行政庁が行政監督権限に基づき発することができるものであることから、法律の根拠なく発令・改廃することができるため、前半は正しい。
2.正しい。
通達は、あくまでも行政機関内部における指針であって、国民の権利及び義務を直接に規定又は制限するものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、原則としてその理由のみをもって、その処分が違法であるということはできないが(最判昭和43年12月24日)、ある種の行政処分が通達に沿って反復して実施されている中、同種の処分が一人に対し通達に反して行われて不利益な結果をもたらした場合には、平等原則違反を理由に違法と判断される余地があると解されている。
実際に、下級審判例でそのように判断されたこともあり、特に課税処分では、公平負担原則が要請されることから、通達に反して一人に対して過分に課税された場合などは、平等原則違反又は公平負担の原則違反によって違法となりうる(大阪地判昭和45年5月12日、東京地判平成8年7月31日など)。
3.誤り。
通達は、国民の権利義務に直接具体的な法律上の影響を及ぼすものではないことから、原則として行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」にあたらず処分性はないと解されている(最判昭和43年12月24日)。
もっとも、通達の影響で直接甚大な損害を被り、且つ、後続する処分を争う機会がなくなる場合など例外的に抗告訴訟が認められる余地はあるという見解も有力であり、実際、例外的に許容した下級審判例も存在する(東京地判昭和46年11月8日)。
これに対して、国家賠償法第1条に言う「公権力の行使」については、純粋な私経済作用及び国家賠償法第2条の対象となるものを除いたすべての活動であると解されているため(広義説、東京高判昭和56年11月13日)、違法な通達により損害を被った場合は、国家賠償請求することが可能である。
実際にも、重大な結果を伴う定めを内容とする通達を作成し発出する担当者には、慎重な検討を行うべき職務上の注意義務が存ずるため、それを怠って違法な通達を発出すれば、その事自体についても国家賠償法上の違法の評価を受けるとして、国家賠償請求を認めた判例がある(最判平成19年11月1日)。
したがって、「通達は、・・・国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にはあたらない。」という部分は明確な誤りとなる。
4.誤り。
「通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である」(最判昭和43年12月24日)
5.誤り。
通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と厳密には別のものであるが、通達は、行政組織の内部法として下級行政機関や公務員個人を拘束し、その通達に重大明白な違法がない限り、服従する義務を負うため、それに反する行為を行った場合は、懲戒処分の対象となると解するのが通説である。
したがって、「通達に反する行為を行ったことと当該行為を行った公務員の職務上の義務違反との間には、直接の関係はない。」というのは誤りである。
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