解答 行政書士試験 平成23年17問
行政事件訴訟法
○:3.内閣総理大臣の異議が執行停止決定に対して述べられたときは、その理由の当否について裁判所に審査権限はなく、裁判所は、必ず決定を取り消さなければならない。
○:3.内閣総理大臣の異議が執行停止決定に対して述べられたときは、その理由の当否について裁判所に審査権限はなく、裁判所は、必ず決定を取り消さなければならない。
問17
執行停止についての内閣総理大臣の異議についての次の記述のうち、妥当なものはどれか。
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.内閣総理大臣の異議は、裁判所による執行停止決定の後に述べなければならず、決定を妨げるために決定以前に述べることは許されない。
☓:2.内閣総理大臣の異議は、下級裁判所による執行停止決定に対するものでも、最高裁判所に対して述べることとされている。
○:3.内閣総理大臣の異議が執行停止決定に対して述べられたときは、その理由の当否について裁判所に審査権限はなく、裁判所は、必ず決定を取り消さなければならない。
☓:4.内閣総理大臣が異議を述べたときは、国会に承認を求めなければならず、これが国会によって否決された場合には、異議を取り消さなければならない。
☓:5.内閣総理大臣の異議の制度については、違憲ではないかとの疑義もあり、実際にも用いられた例が少ないため、他の抗告訴訟における仮の救済手続には準用されていない。
解説
1.妥当でない。
執行停止の申立てがあった場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があった後においても、同様とする(行政事件訴訟法第27条1項)。
したがって、執行停止決定前でも異議を述べることは許される。
2.妥当でない。
執行停止の決定前の異議は、申立てのあった裁判所に対して述べなければならず(行政事件訴訟法第27条1項)、執行停止の決定後の異議は、決定をした裁判所に対して述べなければならない。ただし、その決定に対する抗告が抗告裁判所に係属しているときは、抗告裁判所に対して述べなければならない(行政事件訴訟法第27条5項)。
したがって、「最高裁判所に対して述べることとされている。」というのは誤りである。
3.妥当である。
内閣総理大臣の異議があったときは、裁判所は、執行停止をすることができず、また、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない(行政事件訴訟法第27条4項)。
したがって、異議の理由の当否について裁判所に審査権限はなく、裁判所は、決定を取り消さなければならない。
なお、理由の当否について裁判所が審査する実質的審査権はないと解されているが(通説、東京地判昭和44年9月26日)、理由が付されているかや理由が公共性の要件に関するものかといった、形式的審査権自体は裁判所にあると解されていることに照らすと「必ず」までつけるのは、行き過ぎにも感じる。
4.妥当でない。
内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ、異議を述べてはならず、また、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければならない(行政事件訴訟法第27条6項)。
このように、法は、報告を義務付けているものであり、その趣旨は、異議申述権の行使を慎重にさせ、かつ、国民に対する政治責任を定めたものと解されている(通説、東京地判昭和44年9月26日)。
したがって、「国会に承認を求めなければならず、これが国会によって否決された場合には、異議を取り消さなければならない。」としているのは誤りである。
5.妥当でない。
仮の義務付け及び仮の差止めは、執行停止と同様の機能を有するため、行政事件訴訟法第37条の5第4項で内閣総理大臣の異議を定める同法第27条を準用している。
なお、前半については正しく、内閣総理大臣の異議の制度については、行政権である内閣総理大臣による異議に裁判所が拘束されるという行政権による司法権への介入ともとれるため、三権分立の原理に反するとの批判が多い。
学説上では違憲説(憲法第76条違反)の方が、有力となっており、平成16年の行政事件訴訟法改正の際には、当該制度を廃止する案も出されていたが、結局見送られた。
また、行政事件訴訟法制定後に実際に用いられたのは9例あり、昭和40年代中ごろまでは集団示威行進(デモ行進)に関する執行停止決定に対する異議がいくつかみられたが、昭和46年4月16日を最後に、当該制度は利用されてない。
この問題の成績
まだ、データがありません。