解答 行政書士試験 平成23年30問
民法物権
○:4.Aが自己所有の土地と建物に共同抵当権を設定した後、建物が滅失したため、新たに建物を再築した場合において、Aが抵当権の被担保債権について弁済することができなかったので、土地についての抵当権が実行され、その土地は買受人Bが取得した。この場合、再築の時点での土地の抵当権が再築建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事由のない限り、再築建物のために法定地上権は成立しない。
○:4.Aが自己所有の土地と建物に共同抵当権を設定した後、建物が滅失したため、新たに建物を再築した場合において、Aが抵当権の被担保債権について弁済することができなかったので、土地についての抵当権が実行され、その土地は買受人Bが取得した。この場合、再築の時点での土地の抵当権が再築建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事由のない限り、再築建物のために法定地上権は成立しない。
問30
法定地上権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.Aは、自己所有の土地(更地)に抵当権を設定した後に、その土地上に建物を建築したが、抵当権の被担保債権について弁済をすることができなかった。この場合において、抵当権者が抵当権を実行して土地を競売すると、この建物のために法定地上権は成立せず建物は収去されなければならなくなることから、抵当権者は、土地とその上の建物を一括して競売しなければならない。
☓:2.AがBから土地を借りてその土地上に建物を所有している場合において、Bは、その土地上に甲抵当権を設定したが、Aから建物を取得した後に、さらにその土地に乙抵当権を設定した。その後、Bは、甲抵当権の被担保債権について弁済したので甲抵当権は消滅したが、乙抵当権の被担保債権については弁済できなかったので、乙抵当権が実行され、その土地は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
☓:3.AがBから土地を借りてその土地上に建物を所有している場合において、Aは、その建物上に甲抵当権を設定したが、Bから土地を取得した後に、さらにその建物に乙抵当権を設定した。その後、Aは、甲抵当権の被担保債権について弁済できなかったので、甲抵当権が実行され、その建物は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
○:4.Aが自己所有の土地と建物に共同抵当権を設定した後、建物が滅失したため、新たに建物を再築した場合において、Aが抵当権の被担保債権について弁済することができなかったので、土地についての抵当権が実行され、その土地は買受人Bが取得した。この場合、再築の時点での土地の抵当権が再築建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事由のない限り、再築建物のために法定地上権は成立しない。
☓:5.AとBが建物を共同で所有し、Aがその建物の敷地を単独で所有している場合において、Aがその土地上に抵当権を設定したが、抵当権の被担保債権について弁済できなかったので、その抵当権が実行され、その土地は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
解説
1.妥当でない。
更地に抵当権が設定され、その後建物が築造された場合、抵当権者は更地の価値を算定して抵当権を設定していると思われるので、抵当権の実行によって法定地上権(民法第388条)は成立しないのが原則である。
しかし、そうすると、建物を収去させなければならなくなり、経済的な面で不都合な結果となるので、民法第389条1項は「土地と建物を一括して競売することができる旨」を規定した。これを一括競売という。
そのようにすれば同一所有者が競落するので、建物は壊されず経済的である。
しかし、一括競売は抵当権者の権利であり、義務ではない。
したがって、本肢の「一括して競売しなければならない」とする記述は誤っている。
2.妥当でない。
甲抵当権を設定したときは、土地に借地権が設定されているので、その後土地と建物の所有者が同一人となっても法定地上権は成立しない(最判平成2年1月22日)。
しかし、甲抵当権が弁済により消滅したのであるから、その後の乙抵当権設定時には土地と建物が同一人の所有となっている。
これと似た事例において判例は「土地を目的とする先順位の甲抵当権と後順位の乙抵当権が設定された後、甲抵当権が設定契約の解除により消滅し、その後、乙抵当権の実行により土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合において、当該土地と建物が、甲抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったとしても、乙抵当権の設定時に同一の所有者に属していたときは、法定地上権が成立するというべきである。」(最判平成19年7月6日)と判示している。
したがって、本肢の場合、法定地上権が成立する。
3.妥当でない。
建物を目的とする一番抵当権設定時に法定地上権成立要件の一つである「抵当権設定当時に土地と建物とが同一所有者に属していること」を満たしていなくても、二番抵当権設定時に当該要件を満たしていれば、抵当権が実行されたときは、その建物のために法定地上権が成立する(大判昭和14年7月26日)。
したがって、建物のために法定地上権は成立する。
なお、土地を目的とする一番抵当権設定時に法定地上権成立要件の一つである「抵当権設定当時に土地と建物とが同一所有者に属していること」を満たしていない場合、二番抵当権設定時に当該要件を満たしていても、抵当権が実行されたときは、その建物のために法定地上権は成立しないとされており(最判平成2年1月22日)、土地と建物の場合では、結論が異なっている。
その理由としては、一番抵当権者の保護とされており、すなわち、土地の場合、一番抵当権者は、法定地上権が成立しないことを前提に担保価値を高く評価しているので、後から法定地上権を認めるとその価値が予期せず下がるのに対し、建物の場合は、一番抵当権者は、法定地上権が成立しないことを前提に担保価値を低く評価しているので、後から法定地上権を認めても有利にはなれど、不利益はないからである。
4.妥当である。
最判平成9年2月14日は「所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である。」と判示している。
理由として本判例は「建物が取り壊されたときは土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするのが、抵当権設定当事者の合理的意思であり、抵当権が設定されない新建物のために法定地上権の成立を認めるとすれば、抵当権者は、当初は土地全体の価値を把握していたのに、その担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることになって、不測の損害を被る結果になり、抵当権設定当事者の合理的な意思に反するからである。」とする。
なお、本判例は「大審院昭和13年5月25は、右と抵触する限度で変更すべきものである。」としている。
5.妥当でない。
本肢は建物が共有で土地が共有者の1人の単独所有の場合である。
この場合について判例は、「建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、同人は、自己のみならず他の建物共有者のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから、同人が右土地に抵当権を設定し、この抵当権の実行により、第三者が右土地を競落したときは、民法第388条の趣旨により、抵当権設定当時に同人が土地および建物を単独で所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立するものと解するのが相当である。」(最判昭和46年12月21日)と判示している。
なお、本肢とは、逆に、土地が共有で建物が共有者の単独所有であり、土地の共有持分に抵当権が設定され実行された場合は、法定地上権は原則として成立しない(最判平成6年12月20日)。
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