解答 行政書士試験 平成25年17問
行政事件訴訟法
○:3.原子炉設置許可の取消訴訟の係属中に原子炉の安全性についての新たな科学的知見が明らかになった場合には、こうした知見が許可処分当時には存在しなかったとしても、裁判所は、こうした新たな知見に基づいて原子炉の安全性を判断することが許される。
○:3.原子炉設置許可の取消訴訟の係属中に原子炉の安全性についての新たな科学的知見が明らかになった場合には、こうした知見が許可処分当時には存在しなかったとしても、裁判所は、こうした新たな知見に基づいて原子炉の安全性を判断することが許される。
問17
A電力株式会社は、新たな原子力発電所の設置を計画し、これについて、国(原子力規制委員会)による原子炉等規制法 * に基づく原子炉の設置許可を得て、その建設に着手した。これに対して、予定地の周辺に居住するXらは、重大事故による健康被害などを危惧して、その操業を阻止すべく、訴訟の提起を検討している。この場合の訴訟について、最高裁判所の判例に照らし、妥当な記述はどれか。
(注)* 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.当該原子炉の設置については、原子炉等規制法に基づく許可がなされている以上、Xらは、国を被告とする許可の取消訴訟で争うべきであり、Aを被告とする民事訴訟によってその操業の差止めなどを請求することは許されない。
☓:2.事故により生命身体の安全に直截的かつ重大な被害を受けることが想定される地域にXらが居住していたとしても、そうした事故発生の具体的な蓋然性が立証されなければ、原子炉設置許可の取消しを求めて出訴するXらの原告適格 は認められない。
○:3.原子炉設置許可の取消訴訟の係属中に原子炉の安全性についての新たな科学的知見が明らかになった場合には、こうした知見が許可処分当時には存在しなかったとしても、裁判所は、こうした新たな知見に基づいて原子炉の安全性を判断することが許される。
☓:4.原子炉の安全性の審査は、極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づいてなされるものであるから、そうした審査のために各分野の学識経験者等が作成した具体的な審査基準については、その合理性を裁判所が判断することは許されない。
☓:5.原子炉設置許可は、申請された計画上の原子炉の安全性を確認するにすぎず、実際に稼働している原子炉が計画どおりの安全性を有しているか否かは許可の有無とは無関係であるから、工事が完了して原子炉が稼働すれば、許可取消訴訟の訴えの利益は失われる。
解説
1.誤り。
空港施設や原発施設などは、その主体が民間会社でありながら、公共的性格も有することから、その施設の設置・供用について、近隣住民との争いになった場合、民事訴訟による差止めが認められるかが一つの論点となる。
基本的な捉え方は、公共施設の設置・供用が公権力の行使に該当すれば、民事訴訟による差止めはできず、公権力の行使に該当しなければ、民事訴訟による差止めが可能となる。
判例は、空港施設では民事訴訟による差止めを認めなかったが(大阪空港訴訟:最大判昭和56年12月16日)、原発施設については民事訴訟による差止めを認めている(もんじゅ原発訴訟:最判平成4年9月22日)。
したがって、Xらは、Aを被告とする民事訴訟によってその操業の差止めなどを請求することができる。
2.誤り。
原発事故により生命健康を害されるおそれのある周辺住民が原発の設置許可を争った裁判例では、当初から原告適格を認めていたが、それを決定的にしたのは前掲のもんじゅ原発訴訟である。
判例は、原子炉等規制法の各規定は「単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む」として、広範な周辺住民に原告適格を認めており、本肢のいう「事故発生の具体的な蓋然性」は、原告適格の考慮要素にしていない。
3.正しい。
判例(伊方原発事件:最判平成4年10月29日)は、行政庁の原子炉施設の安全性の判断に不合理な点があるか否かは、処分当時の科学技術水準ではなく、「現在の科学技術水準に照らし」審査するとしている。
したがって、新たな知見に基づいて原子炉の安全性を判断することも許される。
4.誤り。
原発訴訟は、科学裁判ともいわれており、極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見を必要とするため、「裁判所はこれらについてどこまで審理することが許されるのか?」という問題が生じる。
前掲伊方原発事件では、これらについて裁判所は一定の制限を受けることを認めたものと考えられるが(逆に言えば、行政側に一定の裁量を認めてそれを尊重するということ)、具体的な審査基準についての判断を行っている。
「原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。」(伊方原発事件:最判平成4年10月29日)
5.誤り。
肢3で述べたように原子炉施設の安全性の判断に不合理な点があるか否かは、「現在の科学技術水準に照らし」審査するため、実際に稼働している原子炉が計画どおりの安全性を有しているか否かもその判断に影響を与える。
また、工事が完成しても、安全性の確認に違法があれば、許可は取り消されて操業はできなくなるため、訴えの利益はなくならない。
実際、伊方原発事件も、もんじゅ原発訴訟も、稼働していたが、どちらも訴えの利益が失われたとの判断はされていない。
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