行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成25年20問

行政法 国家賠償法

○:3.イ・エ


問20 国家賠償法に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。

ア 経済政策の決定の当否は裁判所の司法的判断には本質的に適しないから、経済政策ないし経済見通しの過誤を理由とする国家賠償法1条に基づく請求は、そもそも法律上の争訟に当たらず、不適法な訴えとして却下される。
イ 税務署長が行った所得税の更正が、所得金額を過大に認定したものであるとして取消訴訟で取り消されたとしても、当該税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていた場合は、国家賠償法1条1項の適用上違法とはされない。
ウ 刑事事件において無罪の判決が確定した以上、当該公訴の提起・追行は国家賠償法1条の適用上も直ちに違法と評価されるが、国家賠償請求が認容されるためには、担当検察官に過失があったか否かが別途問題となる。
エ 自作農創設特別措置法に基づく買収計画が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ当該買収計画につき取消し又は無効確認の判決を得る必要はない。
オ 違法な課税処分によって本来払うべきでない税金を支払った場合において、過納金相当額を損害とする国家賠償請求訴訟を提起したとしても、かかる訴えは課税処分の公定力や不可争力を実質的に否定することになるので棄却される。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.ア・ウ

☓:2.ア・オ

○:3.イ・エ

☓:4.イ・オ

☓:5.ウ・エ

解説

ア.誤り。
インフレーションのため郵便貯金が目減りした原因は、政府が政策目標達成への対応を誤ったことにあるとして国家賠償請求した事案について、判例は「目標を調和的に実現するために政府においてその時々における内外の情勢のもとで具体的にいかなる措置をとるべきかは、事の性質上専ら政府の裁量的な政策判断に委ねられている事柄とみるべきものであって、仮に政府においてその判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成することができず、又はこれに反する結果を招いたとしても、これについて政府の政治的責任が問われることがあるのは格別、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものとすることはできない。」(最判昭和57年7月15日)とした。
したがって、「法律上の争訟に当たらず、・・却下される。」としている点が誤りで、「法律上の争訟には当たるが、棄却される」ことになる。
イ.正しい。
抗告訴訟上の違法と国家賠償法上の違法は、同一の内容なのか、それとも別の内容なのかという問題がある。
この点、更正処分(税金を加算する行政処分)の取消訴訟で違法と判断され、その後に国家賠償請求したという事案において判例は「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法一条一項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受ける」とした上で違法ではないとした(最判平成5年3月11日)。
本判例の考え方は、違法性の概念が取消訴訟と国家賠償では異なるという立場に立って(「違法性二元論」や「違法性相対説」と呼ばれる)、職務上通常尽くすべき注意義務違反の有無の観点から国家賠償法上の違法性を判断(「職務行為基準説」と呼ばれる)したものである。
ウ.誤り。
「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし、逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり、かつ、必要性が認められるかぎりは適法であり、公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから、起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである。」(最判昭和53年10月20日)
エ.正しい。
「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ処分の救済又は無効確認の判決を得る必要はない。」(最判昭和36年4月21日)
オ.誤り。
違法な課税処分によって本来払うべきでない税金を支払った場合、課税処分が金銭を納付させることを直接の目的としているという観点から、過納金相当額を損害とする国家賠償請求訴訟は、実質的に取消訴訟と同様の性質を持つことになる。
そうすると、処分の効力を取消訴訟以外で失わせるという点で、実質的に公定力を否定することになり、更に取消訴訟の出訴期間が過ぎている場合は、実質的に不可争力を否定するという問題も生じる。
しかし、判例(最判平成22年6月3日)は、行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないが、このことは、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならず、不服申し立てや取消訴訟の期間が経過していても、なお国家賠償請求はできるとしている。


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