解答 行政書士試験 平成29年31問
物権
○:5,Dが所有する丙土地の上に、Eが権原なく丁建物を建設し、自己所有名義で建物保存登記を行った上でこれをFに譲渡したが、建物所有権登記がE名義のままとなっていた場合、Dは登記名義人であるEに対して丁建物の収去を求めることができる。
○:5,Dが所有する丙土地の上に、Eが権原なく丁建物を建設し、自己所有名義で建物保存登記を行った上でこれをFに譲渡したが、建物所有権登記がE名義のままとなっていた場合、Dは登記名義人であるEに対して丁建物の収去を求めることができる。
問31
物権的請求権等に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.Aが所有する甲土地の上に、Bが権原なく乙建物を建設してこれをCに譲渡した場合、無権原で乙建物を建設することによってAの土地所有権を侵害したのはBであるから、AはBに対してのみ乙建物の取去を求めることができる。
☓:2,第三者が抵当不動産を不法占有することによって同不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求権が認められるが、抵当権は占有を目的とする権利ではないため、抵当権者が占有者に対し直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることは常にできない。
☓:3,占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還を請求することはできるが、損害の賠償を請求することはできない。
☓:4,第三者が賃貸不動産を不法占有している場合、賃借人は、その賃借権が対抗要件を具備しているか否かを問わず、その不法占有者に対して、当該不動産に関する賃借権に基づく妨害排除請求を行うことができる。
○:5,Dが所有する丙土地の上に、Eが権原なく丁建物を建設し、自己所有名義で建物保存登記を行った上でこれをFに譲渡したが、建物所有権登記がE名義のままとなっていた場合、Dは登記名義人であるEに対して丁建物の収去を求めることができる。
解説
1.妥当でない。
判例によると、「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである」とされている(最判平成6年2月8日)。土地所有権を現に侵害している者こそが争いの当事者であることが一般的だからである。
本肢の場面にあてはめると、Aは建物の現所有者であるCに建物の収去を求めることができるのである。
したがって本肢は妥当でない。
2.妥当でない。
抵当権を設定しても、抵当権者は目的不動産をそもそも占有することはできないため、抵当権に基づいて妨害排除請求はできないようにも思われる。
これに関して判例は「抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができるものというべきである」とされている(最判平成17年3月10日)。これによると、本肢のような不法占有者に対しては当然、妨害排除請求ができる。
では、目的不動産を使用占有できない抵当権者は、直接自らへの抵当不動産の明渡しを求めることはできるのであろうか。
判例は「抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである」とされている(同上)。
したがって本肢は妥当でない。
3.妥当でない。
条文によると「占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる」とされている(民法200条1項)。
したがって本肢は妥当でない。
なお、下記の3つは併せて覚えておくこと。特に「及び」「又は」はしっかり覚えておいて欲しい。
占有保持の訴え
(民法198条) 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
占有保全の訴え
(民法199条) 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
占有回収の訴え
(民法200条) 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
4.妥当でない。
賃借権はそもそも「債権」である。債権とは、「特定人の特定人に対する権利」なのであるから、賃借人(債権者)は賃貸人(債務者)に、賃借権に基づいて「不法占有状態を解決し、自分が使用できるようにしろ」と請求できることは当然である。
一方で、賃借権に基づいて賃借人は不法占有者(賃貸借関係の当事者ではない)に対し、妨害排除請求を行うことはできるのだろうか。
判例によると、対抗力のある賃借権者は、直接に、不法占拠者に対して妨害排除請求ができるとされている(最判昭和30年4月5日)。「対抗力があるのであれば」、賃借権の性質は物権に近づき、債務者以外にも権利主張できるのである。
したがって本肢は妥当でない。
5.妥当である。
肢1の解説にあるように、本来Dは現に土地所有権を侵害しているFを相手方として建物の収去を求めるべきである。
では、Dは前建物所有者で現登記名義人のEに建物の収去を求めることはできないのだろうか。Dとしては相手方の氏名住所は登記名義によって判断することが通常であり、Eの方が訴訟において相手方としやすいことから問題となる。
判例によると「他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である」とされている(最判平成6年2月8日)。民法177条によると、登記が物権の「得喪」を対抗するための要件である。「得喪」の「喪」は失うことを意味するため、Eが登記名義を保有したままであれば、Eが自分は権利者ではないと対抗できないと理解することができる。ゆえにDはEを相手方とすることができるのである。
したがって本肢は妥当である。
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