行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成22年2問

基礎法学

○:3.イ・エ


問2 世界各国の法体系は、大陸法系と英米法系に分類されることがあるが、大陸法系と英米法系の法制度等の差異に関する次のア~オの記述のうち、妥当でないものの組合せはどれか。

ア、大陸法系の諸国では、一般に法曹養成機関等を修了した者を直ちに裁判官に任用する職業裁判官の制度が採用されている。これに対して、英米法系の諸国では、一般に弁護士の経験を有する者の中から裁判官を選任する法曹一元の制度が採用されている。わが国においては、司法研修所における司法修習を終えた者が直ちに裁判官に任用されるのが通例であるが、弁護士の経験を有する者が裁判官に任用されることもある。
イ、大陸法系の諸国では、ローマ法および教会法の影響を受けて、近代以降に民法典や刑法典等の成文法が整備され、それらの成文法が主要な法源となっている。これに対して、英米法系の諸国では、英国の古来の慣習から発展した判例が主要な法源となっているが、刑法の領域については、罪刑法定主義の観点から、判例を法源とすることは一切認められていない。わが国においても、犯罪は法律により明確に定められていることを要する。
ウ、大陸法系の諸国では、公法と私法の区別が重視され、行政事件を取り扱う特別の裁判所が設置されているのが通例である。これに対して、英米法系の諸国では、公法と私法の区別は重視されず、行政事件も通常の裁判所が裁判を行う。わが国においては、大日本帝国憲法に基づいて行政裁判所が設置されていたが、日本国憲法の施行にともない廃止された。
エ、大陸法系の諸国の裁判では、刑事事件と民事事件が明確に区別される。これに対して、英米法系の諸国では、刑事事件と民事事件が明確に区別されず、刑事裁判において犯罪の被害者等が損害賠償の請求を行う付帯私訴と呼ばれる制度が採用されているのが通例である。わが国においても、近年の刑事司法制度の改革により、特定の犯罪に関して付帯私訴の制度が導入された。
オ、刑事裁判において、大陸法系の諸国では、国民から選任された参審員が裁判官と合議体を構成して裁判を行う参審制度が採用されている場合がある。これに対して、刑事裁判において、英米法系の諸国では、国民から選任された陪審員が事実を認定して評決を行う陪審制度が採用されているのが通例である。わが国の裁判員制度は、裁判員が裁判官と合議体を構成して事実の認定とともに量刑に係る判断に関与することから、英米法系の陪審制度と異なるが、他方で、裁判員は法令の解釈に係る判断に関与しないことから、大陸法系の参審制度とも異なっている。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.ア・ウ

☓:2.ア・エ

○:3.イ・エ

☓:4.イ・オ

☓:5.ウ・オ

解説

ア.妥当である。
大陸法とは、英米法から見た場合の西ヨーロッパ大陸で発展・採用された法系のことで、起源はローマ法にあるとされている。
大陸法系の諸国(ドイツ、フランス、イタリアなど)では、一般に法曹養成機関等を修了した者を直ちに裁判官に任用する職業裁判官制度 (キャリアシステム) が採用されいるのに対して、英米法系の諸国(アメリカ、イギリスなど)では、一般に弁護士等によって法律家としての経験を相当期間積んだ者から裁判官を選任する法曹一元制度が採用されている。
わが国においては、司法研修所における司法修習を終えた者が直ちに裁判官に任用されるのが通例であるが、弁護士の経験を有する者が裁判官に任用されることも認められており(裁判所法第41条1項5号、42条1項4号、44条1項3号)、法曹一元制度の要素も取り入れている。
イ.妥当でない。
本肢における「大陸法系の諸国では、ローマ法および教会法の影響を受けて、近代以降に民法典や刑法典等の成文法が整備され、それらの成文法が主要な法源となっている。これに対して、英米法系の諸国では、英国の古来の慣習から発展した判例が主要な法源となっている」と言う点、「(罪刑法定主義の観点から、)わが国においても、犯罪は法律により明確に定められていることを要する。」という点は正しい。
しかし、判例が第一次的法源として判例法主義をとる英米法系の諸国では、刑事と民事の区分けが明確でない国もあるため、刑法の領域について判例が法源になることはありうるし、更に言えば判例上も犯罪として認知されていなかった行為が、裁判の結果としてコモン・ロー上の犯罪として処罰されることもありうる。
したがって、「罪刑法定主義の観点から、判例を法源とすることは一切認められていない。」とはいえない。
ウ.妥当である。
大陸法は、個人の対等な関係を基本とする私法に重点が置かれ、公法と私法が明確に区別され、行政事件を取り扱う特別の裁判所が設置されているのが通例である。
これに対して、英米法は、公法と私法の分化が十分成熟しておらず、その不明確性が指摘されており、行政事件も通常の裁判所が裁判を行っている。
わが国においては、明治期に大陸法を継受しており、大日本帝国憲法に基づいて行政裁判所が設置されていたが、日本国憲法の施行にともない廃止され、現在は司法裁判所が行政事件も担当している。
エ.妥当でない。
付帯私訴とは、刑事事件において検察官が公訴を提起した場合に、当該事件の被害者が、刑事被告人に対する民事上の損害賠償を求める訴えを、公訴を審理する刑事裁判所に併せて提起する制度をいうが、この制度が採用されているのは、大陸法系の諸国(ドイツ、イタリア等)であって、英米法系の諸国ではない。
また、わが国においては、近年の刑事司法制度の改革により、犯罪被害者保護法第17条以下で付帯私訴に類似する「損害賠償命令の申立て」の制度が定められているが、損害賠償の請求に対する審理は刑事の判決後に行われることから、厳密な意味での付帯私訴制度とは異なっている。
なお、前半に書かれている大陸法系及び英米法系における刑事と民事の区分けに関する記述は正しく、英米法は、公法を中心に発達したため、刑事法と民事法の区分が曖昧であると指摘されている。
オ.妥当である。
参審制度とは、国民から任期制で選任された参審員が裁判官と合議体を構成して、犯罪事実の認定や量刑のほか法律問題についても判断を行う制度で、ドイツ、フランス、イタリアなど大陸法系の諸国で採用されている。
一方、陪審制度とは、事件ごとに国民から選任された陪審員が事実を認定して評決を行い、裁判官は法律問題(法解釈)と量刑を行う制度で、アメリカやイギリスなど英米法系の諸国で採用されている。
わが国の裁判員制度は、裁判員が裁判官と合議体を構成して事実の認定とともに量刑に係る判断に関与することから、英米法系の陪審制度と異なるが(裁判員が事件ごとに選任される点では陪審制と同じ)、他方で、裁判員は法令の解釈に係る判断に関与しないことから、大陸法系の参審制度とも異なっている(裁判員と裁判官が合議体を形成するという点では同じ)。


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