解答 行政書士試験 平成25年30問
民法債権
○:2.相続放棄は、責任財産を積極的に減少させる行為ではなく、消極的にその増加を妨げる行為にすぎず、また、相続放棄は、身分行為であるから、他人の意思によって強制されるべきではないので、詐害行為取消権行使の対象とならない。
○:2.相続放棄は、責任財産を積極的に減少させる行為ではなく、消極的にその増加を妨げる行為にすぎず、また、相続放棄は、身分行為であるから、他人の意思によって強制されるべきではないので、詐害行為取消権行使の対象とならない。
問30
詐害行為取消権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)
☓:1.遺産分割協議は、共同相続人の間で相続財産の帰属を確定させる行為であるが、相続人の意思を尊重すべき身分行為であり、詐害行為取消権の対象となる財産権を目的とする法律行為にはあたらない。
○:2.相続放棄は、責任財産を積極的に減少させる行為ではなく、消極的にその増加を妨げる行為にすぎず、また、相続放棄は、身分行為であるから、他人の意思によって強制されるべきではないので、詐害行為取消権行使の対象とならない。
☓:3.離婚における財産分与は、身分行為にともなうものではあるが、財産権を目的とする法律行為であるから、財産分与が配偶者の生活維持のためやむをえないと認められるなど特段の事情がない限り、詐害行為取消権の対象となる。
☓:4.詐害行為取消権は、総ての債権者の利益のために債務者の責任財産を保全する目的において行使されるべき権利であるから、債権者が複数存在するときは、取消債権者は、総債権者の総債権額のうち自己が配当により弁済を受けるべき割合額でのみ取り消すことができる。
☓:5.詐害行為取消権は、総ての債権者の利益のために債務者の責任財産を保全する目的において行使されるべき権利であるから、取消しに基づいて返還すべき財産が金銭である場合に、取消債権者は受益者に対して直接自己への引渡しを求めることはできない。
解説
1.妥当でない。
共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得る(最判平成11年6月11日)。
なぜならば、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。
したがって、遺産分割協議は詐害行為取消権の対象とならないとする本肢は妥当でない。
2.妥当である。
「相続の放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいっても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。
また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。」(最判昭和49年9月20日)。
3.妥当でない。
債務超過にある者が離婚時に財産分与した事案において判例(最判昭和58年12月19日)は、「分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。」とした。
したがって、本肢は、特段の事情の例を「財産分与が配偶者の生活の維持のためにやむをえないと認められる」としている点と、原則として「詐害行為取消権の対象となる。」としている点で誤っている。
なお、上記判例の基準によって実際に財産分与が詐害行為にあたるとした判例(最判平成12年3月9日)では、「不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消される」とし、また、離婚時の慰謝料についても「配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、・・・詐害行為取消権行使の対象となり得る」としている。
4.妥当でない。
前半の「詐害行為取消権は、総ての債権者の利益のために債務者の責任財産を保全する目的において行使されるべき権利であるから」とする点は妥当であるが(民法第425条)、後半が妥当ではない。
詐害行為取消権(民法第424条、426条)は、詐害行為によって逸出した財産を取り戻し、債権者の共同担保を保全することを目的とするものであるから、それに必要な範囲において行使すれば足りる。
そして、この必要な範囲とは、原則として取消債権者の債権額を限度として(大判大正8年2月3日)、他に多くの債権者がいる場合でも、それを考慮には入れないとされている(大判大正9年12月24日)。
したがって、本肢の「自己が配当により弁済を受けるべき割合額でのみ取り消すことができる」とする記述は妥当ではない。
5.妥当でない。
前半は妥当であるが(肢4参照)、後半が妥当ではない。
金銭の取戻請求の場合は、取消債権者は自己に引き渡すよう請求することができる(大判大正10年6月18日)。
これは債務者のもとに返還させようとしても、債務者が受取りを拒んだら詐害行為取消権は役に立たなくなるからである。
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