行政書士過去問ドリル

解答 行政書士試験 平成20年31問

民法物権

○:5.抵当権設定登記後にBが同抵当建物をHに賃貸してHがその旨の登記を備えた場合、抵当権実行による買受人Iからの明渡請求に対して、賃借人Hは、明渡しまでの使用の対価を支払うことなく、6ヶ月の明渡猶予期間を与えられる。


問31

AはBに金銭を貸し付け、この貸金債権を担保するためにB所有の土地の上に建っているB所有の建物に抵当権の設定を受けて、その登記を備えた。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものはどれか。

選択肢(解答ページでは、出題時の順番に戻ります)

☓:1.Aの抵当権が実行された場合、抵当権設定時に建物内に置いていたB所有の家電製品のテレビには抵当権の効力は及ばない。

☓:2.抵当権設定時にB所有の土地の登記名義はCであった場合でも、抵当権実行により買受人Dのために法定地上権が成立する。

☓:3.抵当権設定登記後にBが同抵当建物をEに賃貸した場合、BのAに対する債務不履行後に生じた賃料について抵当権の効力が及ぶので、抵当権の実行としてAはこの賃料から優先的に弁済を受けることができる。

☓:4.抵当権設定登記後にBが同抵当建物をFに賃貸した場合、対抗要件を備えた短期の賃貸借であっても、賃借人Fは抵当権実行による買受人Gに対抗できない。

○:5.抵当権設定登記後にBが同抵当建物をHに賃貸してHがその旨の登記を備えた場合、抵当権実行による買受人Iからの明渡請求に対して、賃借人Hは、明渡しまでの使用の対価を支払うことなく、6ヶ月の明渡猶予期間を与えられる。

解説

1.正しい。
抵当権の効力は、設定行為に別段の定めがない限り、抵当不動産の附加一体物に及ぶ(民法第370条)。
しかし、テレビは附加一体物には含まれないため、抵当権の効力は及ばない。
なお、附加一体物に付合物の他に従物も含まれるかについて判例は、抵当権設定当時に存する従物は(抵当権設定後の従物については争いあり)、別段の定めが無ければ、抵当権の効力が及ぶとしている(大連判大正8年3月15日、最判昭和44年3月28日)。
附加一体物の具体例
建物付合物雨戸、入り口の扉、増築部分など
従物ふすま、障子、畳など
土地付合物植木、とりはずしできない庭石など
従物石灯籠、とりはずしできる庭石など
2.正しい。
所有権移転登記を経由しないまま土地に対し抵当権を設定し、土地とその上にある建物の登記面の表示が異なる場合であっても、実際の所有者が同一であるときは、法定地上権の成立を妨げない(最判昭和48年9月18日)。
したがって、買受人Dのために、法定地上権は成立する(民法第388条)。
3.正しい。
抵当権の効力は担保債権に不履行があればその後の抵当不動産の果実に及ぶ(民法第371条)。
したがって、抵当権の実行として、Aはこの賃料から優先的に弁済を受けることができる。
なお、従来は「抵当不動産が差し押さえられた後」としていたが、平成15年に改正され、差押さえ前でも、その被担保債権につき不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の天然果実及び法定果実にも及ぶとされ、それと共に民事執行法に担保不動産収益執行手続きが新設された(賃料債権に物上代位して弁済を受けることも可能)。
4.正しい。
抵当権設定登記後の賃貸借は対抗要件を備えていても抵当権実行による買受人に対抗することはできない(民法第395条)。
なお、本肢は平成15年改正で廃止された短期賃貸借制度に関する問題だが、改正後しばし経過しているので補足しておく。
従来の3年以内の短期賃借権は抵当権設定後に締結された場合でも、契約期間中は引き続き賃借でき、抵当権者や買受人に対抗できる事になっていた。
しかし、俗に言う占有屋が抵当目的物を占拠することによって、競売代金を低下させたり、抵当権者や競落者から法外な敷金の返却や立退料を求めたりなど、当該制度を悪用する行為がなされてきた。
判例上、抵当権に基づく妨害排除請求権によって、占有屋を立退かすことは認められていたが、結局その裁判の間は占有されることやその労費を考えると支払わざるを得なかったという事情に鑑み、これらを解決すべく短期賃貸借制度を廃止する法改正が行われたという背景がある。
5.誤り。
肢4で解説した短期賃貸借制度の廃止に関する法改正の調整として、競売手続の開始前から使用又は収益をする抵当建物使用者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しないことになった(民法第395条1項)。
しかし、対価は支払わなければならず、支払いを怠ると六箇月猶予の期限の利益を失う事になる(民法第395条2項)。
本問の肢4及び肢5に関して、掲示板等で「同意の登記」についての質問を幾度と受けたので補足説明しておく。
まず肢4の「対抗要件」や肢5の「その旨の登記」とは民法第605条の不動産賃借権の登記を意味しており、民法第387条の同意の登記ではないことに注意が必要である。
民法第605条の登記ではその後に取得した抵当権者(その実行による買受人を含む)に対しては対抗できるが、登記前の抵当権者には対抗できない。
直接的な規定としては民事執行法第59条2項によって、抵当権の実行により賃借権の効力が失われるため、買受人に対抗できないことになる。
一方、民法第605条の不動産賃借権の登記にプラスして、民法第387条の同意の登記がある場合は、登記前の抵当権者及びその実行による買受人に対抗することができる。
民法第605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。
民法第387条1項
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。


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